
子供の頃、通知表でオールAを取ったら「NINTENDO64」を買ってあげると親に約束されたことがある。授業に集中できずにいた私だったが、従兄弟の家で遊んだ「マリオカート64」が私の心に火をつけた。あの加速するキノコやトゲのある甲羅に魅了されたのだ。それまで体験したことのない感覚で、どうしても自分のものが欲しくなった。
結局、NINTENDO64は手に入らなかった。深夜に流れていた残酷な描写のある「ソニックアドベンチャー2」のCMに惹かれ、通知表で獲得した権利をセガの「ドリームキャスト」に使ってしまったからだ。
あれから25年、もしあの時NINTENDO64を選んでいたら、私のゲーマーとしての人生はどう変わっていただろうかと考えることがある。「クレイジータクシー」や「ジェットセットラジオ」に彩られた子供時代ではなく、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」のコキリの森のメロディーや、「スーパーマリオ64」の「さむいさむいマウンテン」のアコーディオンの音色に彩られた子供時代になっていたかもしれない。間違いなく、オフスプリングの曲を聴く機会は減っていただろう。

Analogue 3D
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幸いなことに、私や私のようなゲーマーのために、レトロゲーム機の現代版を提供していることで知られるAnalogueが、NINTENDO64を復活させる時が来たと判断してくれた。同社の新型ゲーム機「Analogue 3D」は、AliExpressやTikTok Shopにあふれる安価なエミュレーター携帯機が妥協している部分を排除し、徹底的な純粋さを目指している。
NINTENDO64は任天堂にとって(日本限定の「カラーテレビゲーム」を除くと)3番目の家庭用ゲーム機で、初めて3D表示に対応したマシンだった。ジャンルを定義づける名作が多くゲーマーからは称賛されたものの、世界販売台数は3293万台にとどまり、爆発的なヒットとは言えなかった。これに対し、初代「ファミリーコンピュータ」は6191万台、「Wii」は1億163万台を売り上げている。任天堂のゲーム機で最も売れたのは「Nintendo Switch」で、現在までに1億5400万台を記録している。しかし、NINTENDO64はマリオなどの象徴的なキャラクターが3Dへと飛躍した技術的転換点として、私のようなミレニアル世代のゲーマーの心には大きく残っている。
より新しく高度なゲーム機にNINTENDO64が追い抜かれてから数年、N64のゲームに回帰しようとするゲーマーの多くは、ガレージセールで古い実機を探すか、エミュレーターをダウンロードするか、あるいは「Nintendo Switch Online」で遊ぶしかなかった。入手しやすさや現代の4Kテレビとの相性など、どの方法にも欠点があり、2025年現在において決定的なNINTENDO64体験を見つけることは困難だった。
Analogue 3Dは、現代のテレビで(望むならカートリッジを使って)N64のゲームを遊ぶという難題を解決しようとしている。これは、改造愛好家たちが古いハードウェアを現代のテレビに対応させるために新たな方法を模索してきたのと同じだ。「N64 HDMI Retro GEM」のような改造キットもあるが、210ドル(約3万1000円)と高価であり、中級レベルのはんだ付け技術が必要となる。
一方、Analogue 3Dは箱から出してすぐに使え、ネイティブHDMI出力と内部スケーリングに対応しており、リスクを背負って古いゲーム機を改造する必要もない。そして269.99ドル(約4万2000円)という価格設定のAnalogue 3Dは、無駄がなく、煩わしさもなく、競争力のあるオールインワンのソリューションだ。なお、2025年の初めに携帯ゲーム機「Chromatic」をリリースしたModRetroも独自の現代版NINTENDO64のような製品を開発中であり、そちらは200ドル(約3万円)になる予定だという。
これまでのAnalogue製品と同様、Analogue 3DはApple製品のような洗練を感じさせるクリーンなデザインとなっている。しかし、ソフトウェアエミュレーターを使えばほとんど手間をかけずにN64のゲームが遊べる今の時代、Analogue 3Dが響くのは最もハードコアなレトロゲーム愛好家か、怪しげなウェブサイトでROMを探したりアプリをインストールしたりする手間を嫌う人たちだけだろう。
「純粋」を好むユーザー向けの映像
Analogue 3Dの使い勝手は良い。起動は高速で、UIは簡素ながらもゲームのコレクションをクリーンに表示し、意図された通りに再生する。
Analogue 3DはFPGA技術を使用し、オリジナルのシステムハードウェアをトランジスタレベルで再現している。つまり、古いN64のカートリッジを差し込むと、当時のコードを本来の意図通りに実行する。ここにソフトウェアエミュレーションは存在しない。目にする映像も耳にする音もフィルターを通さない生のままだ。
ソフトウェアによる小細工がないため、ソフトウェアエミュレーターにあるような機能は使えない。「マリオカート64」のゲーム内モデルはブロック状のピクセルのままだ。一方、人気のオープンソースN64エミュレーター「Project64」などは、内部的にゲームを高解像度でレンダリングできるため、よりシャープで鮮明に見せることができる。他にも、画像をきれいに見せるための手段がある。ファンの中には、29年前の「マリオカート64」をまるで最新ハード用に作られたかのように見せる4Kテクスチャパックを自作する者もいる。
Analogue 3Dから出力される生の映像は、ソフトウェアエミュレーションが実現できるものとは比べものにならないかもしれないが、多数のフィルター機能が搭載されている。
1990年代や2000年代のゲームハードは、当時のテレビで動作するように作られていた。N64本来の320×240ピクセルの映像出力は、走査線が入る低解像度のテレビで表示することを前提に設計されていたのだ。これにより画像が柔らかくなり、ギザギザしたピクセルがぼかされていた。Analogueは、N64のゲームがあるべき姿で忠実に表示されるよう、複数のフィルターとスケーリングソリューションを搭載している。内蔵フィルターを使えば、BVMやPVM、ブラウン管テレビの画面をシミュレートできる。私はBVMやPVMの映像設定が好みだ。
ここが、純粋主義者とエミュレーション愛好家の分かれ目になるだろう。純粋主義者は、N64のゲームを本来意図された媒体のように表現する何らかのフィルターを好む。一方、エミュレーションで育った世代は、現代のテレビやディスプレイで見栄えが良い、アップスケーリングされたクリーンな映像を好むかもしれない。後者のグループにとっては、「Project64」や「Nintendo Switch Online」を使い続ける方が理想的な選択肢かもしれない。
Nintendo SwitchのN64エミュレーションを超えるサウンド
Analogue 3Dでプレイする「マリオカート64」と、「Nintendo Switch Online」で配信されているバージョンを行き来してみて、すぐに衝撃を受けたのが前者の音の深みと豊かさだ。
Analogue 3Dでプレイすると音楽がよりふくよかに聞こえ、驚いたことにサラウンドサウンドにも対応していた。低音にははっきりとした迫力があり、スピーカーからはSwitch Onlineでは再現できない明瞭な音が響いてきた。正直なところ、Switchで遊べるN64タイトルは、比較すると貧弱に聞こえてしまった。
ネットで調べたところ、N64はステレオ音声(およびドルビーサラウンド)を44.1kHz/16bitで出力可能だった。しかし、このサンプリングレートは処理負荷が高く、結果としてゲーム側で音質を落とすことが多かったようだ。Analogue 3Dは、音声を48kHz/16bit PCMで出力できる。
Analogueによると、同社は数セントの安価な部品ではなく、単価数ドルの高品質なHi-Fiコンポーネントを調達したという。このゲーム機は「初のHi-FiなN64」なのだそうだ。
Analogue 3Dを通したゲームの音が劇的に良かったことを考えると、Analogueの主張を信じたくなってしまう。
最小限の遅延
入力遅延は長年、N64のソフトウェアエミュレーションで問題となってきたが、Analogue 3Dはソフトウェアエミュレーションを行っていないため、入力遅延は実質的に存在しない。
「マリオカート」や「ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ」をプレイした際、付属の「8BitDo 64 Bluetoothコントローラー」経由での入力反応はおおむね高速だった。手元にN64純正の有線コントローラーがなかったため、有線入力のテストはできなかった。
奇妙なことに、Analogue 3D本体とコントローラーの間には遮蔽物がない状態を保つ必要があるようで、そうしないと酷いラグが発生する。原因は不明だが、購入を検討している人は、テレビの下などAnalogue 3Dがはっきりと見える場所に設置するようにしないと、問題が生じるかもしれない。
Analogue 3Dはオーバークロック可能
NINTENDO64のライフサイクルの終わり頃、このハードウェアの限界に挑むようなゲームがいくつかリリースされた。「パーフェクトダーク」「ドンキーコング64」「Conker’s Bad Fur Day」といった象徴的なタイトルだ。今回のテストではこれらのゲームを用意できなかったが、Analogue 3Dにはオーバークロックオプションがあり、処理能力を少し引き上げてゲームプレイをより滑らかにできる。
これは厳密にはAnalogue側のチートではない。Analogueによると、任天堂はN64のライフサイクル終盤、開発者に向けてより強力な開発キットを送っていたという。それらのゲームの一部は日の目を見ることはなかったが、結果としてフレームレートのカクつきが生じるタイトルもあった。
手元にあったゲームはそれほど技術的な負荷が高いものではなかったが、「マリオカート64」の「シャーベットランド」のような視覚的に複雑なコースでAnalogue 3Dの処理能力を上げてみたところ、問題なくプレイできた。
1996年の発売当時、フレームレートの問題を抱えていたもう1つのゲームが「パイロットウイングス64」だ。このゲーム自体はフレームレートの上限が設定されていない。テストでは、Analogue 3Dを実験的なオーバークロックモードに設定すると、ゲームは滑らかに動作した。
後悔はない
短命に終わったとはいえ、セガのドリームキャストは素晴らしいゲーム機だった。N64ではなくドリームキャストを選んだことに後悔はない。マリオやゼルダはいなかったが、私のゲーム人生を形作る思い出深い体験を提供してくれた。
あれから年月を経て、私はNINTENDO64の名作の多くをプレイすることができた。そのほとんどは後の任天堂ハードに移植されたものだ。しかし、そうした移植版には時折、奇妙な癖や妥協が見られた。ニンテンドー3DS版の「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D」はジャンプのタイミングが妙で、移動が面倒になっていたようだ。難易度も下がっていた。こういう場合こそ、オリジナルのN64版を探し出し、当初設計された通りの内容でプレイしてみたいと思う。
全体的な品質を考えれば、Analogue 3Dには価格に見合う価値があると私は確信している。ただし、すべての人に適しているとは思わない。Nintendo Switch Onlineで数本のタイトルを遊んだり、PCのエミュレーターを使ったりするだけで満足するゲーマーも一定数いるだろう。改造によるエミュレーション側の強化レベルを考えれば、そちらの方が優れている場合さえあるかもしれない。Analogue 3Dは、あくまで実機で遊びたいと願う「純粋主義者」に向けた製品だ。そして私にとって、Analogue 3Dのような製品は他にはない。少なくとも、今のところは。
私は子供の頃にNINTENDO64を十分に体験できなかったが、Analogue 3Dは私が逃した時間を取り戻してくれる。その意味では、この新しい3Dゲーム機の出来栄えを考えると、2001年にドリームキャストを選んだことは、数十年かかったとはいえ、N64のゲームを最高の状態で体験する機会を私に与えてくれたのかもしれない。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を4Xが日本向けに編集したものです。
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