
厳しい冬の日の静かなひととき、私はVRヘッドセット「Meta Quest」を30分だけ装着することにしている。ゲームや映画のためではない。体を動かすためだ。
VRフィットネスアプリは多数あるが、私に手を差し伸べ、さらなる高みへと押し上げてくれた唯一のアプリが、2023年にMetaに買収されたサブスクリプション型の「Supernatural」だ。
このアプリは私にとって心地よい場所になり、モチベーションの源になった。自分のためにそこにいてくれるようなトレーナーたちの個性に惹かれ、もっと継続的にワークアウトに取り組みたいと思うようになった。Supernaturalは旅先にQuestを持っていく唯一の理由であり、Questにその価格に見合う価値があると感じさせてくれた理由の一部でもある。
3Dの風景を背景に、ライセンス済みの楽曲、リズムボクシング、ダンスを組み合わせたSupernaturalの世界観は美しい。そして、ワークアウト中に語りかけてくる3Dビデオとして投影されたコーチたちは、驚くほど体験の質を高めてくれる。心拍数トラッキングの連携機能もあり、ワークアウトの管理に活用できる。
そして今、それは実質的に消滅してしまった。
完全に消えたわけではない。Supernaturalのアプリはまだ機能している。しかし、MetaのReality Labsにおける最近のレイオフを受けて、Supernaturalは「メンテナンスモード」に移行した。つまり、新しいワークアウトも、新しい音楽も、コーチからの励ましの言葉も、もう追加されないということだ。それは「ゾンビ」アプリであり、Metaがますます放棄したがっているように見えるメタバースの中に凍りついた記念碑にすぎない。実質的には死んだも同然だ。
メタバースからの転換
Metaがゲームやスタジオを閉鎖したのは、これが初めてではない。数年前には、無料の対戦型ソーシャル・無重力フリスビーゲーム「Echo Arena」を終了している。今回のMetaのレイオフには、同社が買収した他の著名なゲームスタジオ数社の閉鎖も含まれている。それらのスタジオは、「Asgard’s Wrath II」や「Batman: Arkham Shadow」、「Deadpool VR」など、ここ数年で最高水準のQuest向けゲームを手がけてきた。しかし、Supernaturalの衰退は、私にとって最も大きなショックだった。
Metaのレイオフに関する報道によれば、同社はソーシャルエコシステムである「Horizon Worlds」の軸足をヘッドセットからスマートフォンへと移そうとしている。これは以前から進められていた方向性だ。MetaはQuest体験のあらゆる部分をHorizon Worldsに集約しようとしているが、私はこれをほとんど利用していない。Questでゲームをするのが大好きな私の10代の子供たちも同様だ。子供たちは自分の「iPad」やノートPCで「マインクラフト」や「Roblox」をプレイしている。Horizon Worldsに乗り換えることは、まずないだろう。
スマートグラスは注目分野だが、全くの別物だ。AI搭載でファッション性を重視し、現時点ではサードパーティ製アプリを動作させる能力がないMetaのスマートグラスは、どちらかといえばウェアラブルデバイスに近い。
すでにVRに存在理由を見出し、それを愛していた人々はどうなるのだろうか。どうやら、置き去りにされるようだ。
VRはフィットネスへの扉、しかし捨てられつつある
VRにまったく興味がなかったのに、Supernaturalを使うためにQuestを買った人々を私は知っている。私はSupernaturalのFacebookコミュニティをフォローしており、そこではファンたちが絶えず自分のフィットネスの過程を共有していた。一度、ニューヨークで開催されたSupernaturalのファンミーティングに参加したことがあるが、あらゆる年齢層の人々が集まり、つながりを感じている様子に感銘を受けた。
Supernaturalは厳密にはメタバースそのものではないが、私の意見では、Metaがこれまでに手にした中で最もメタバースに近いものだった。そこに行けば自分の居場所があると感じさせてくれたからだ。
MetaはXRにおけるフィットネス分野でも先んじていた。この分野には、ハードウェアが十分に軽量化されれば、AppleやGoogleも参入してくると私は確信している。参入しない理由がないからだ。適切な価格で、効果があるなら、人々はジムの会費やトレーナー、器具に喜んで金を払う。正しく実現されれば、XRは未来のホームジムになり得る。私にとっては、数年前からある意味でそうなっていた。
私は毎年、Metaにそのことについて問い続けてきた。2024年、私はMetaのVR部門の元責任者であるMark Rabkin氏に対し、Supernaturalの買収やVRリズムゲーム「Beat Saber」の頻繁なアップデートがあるにもかかわらず、なぜフィットネス機能をさらに拡大しないのかを尋ねた。同氏は当時、Questベースのフィットネスを「安定した成長分野」と表現していた。
私は、MetaがQuestでフィットネスを重視する姿勢を弱めていくのを目にしてきた。その代わりにMetaが作っているのは、ランニングやサイクリング、スキーなどを想定した「Oakley Vanguard」などのフィットネス向けスマートグラスだ。それらは、そうした活動を一切しない私のような人間を優しく導いてくれるものとは違う。
スマートグラスは、すでに高い意識を持ってフィットネスを生活に取り入れている人々に向けて売り込まれている。Questが素晴らしいのは、どこから始めればいいかわからない人々に扉を開いたという点だ。
今、置き去りにされようとしているコミュニティを前にして、私は問わずにはいられない。なぜなのか。利益が十分でなかったからか。もしVRのような、なかなか足がかりを得られずに苦戦してきたプラットフォームの信者を獲得することを目指すなら、熱心な集団を切り捨てるべきではない。
VRの形態が、よりメガネに近いもの、よりAIを多用したものへと変化しつつあるように見える今、Metaが次にどこへ向かうのかと、私でさえ困惑している。
Questのアイデンティティ危機、そして私の危機
私にとってQuestは、主にゲーム機でありフィットネスデバイスだ。それらを除いたら何が残るのだろうか。私にはわからない。
Metaは今後、ヘッドセットをテレプレゼンスのための場所、自宅でスキャンしたものを他者と共有できるホロデッキ、そしてコミュニティのハブにしたいと考えている。だが、考えてみてほしい。同社は今まさに、1つのコミュニティを捨てたのだ。そして、Questから最高のゲームスタジオを奪うことが、誰かをそこでゲームをプレイしたいという気持ちにさせるはずもない。
今の私は混乱し、途方に暮れている。個人的なフィットネス生活のバランスを整えるツールとして、Questという心地よい場所に頼り切っていた。SupernaturalでのVRワークアウトは毎日の目標になっていた。必ず達成できたわけではないが、そうしたいと思っていた。
今でも過去のワークアウトを試すことはできるが、サブスクリプションを継続する理由はあるだろうか。私は、Supernaturalチームの本物のトレーナーたちが提供する、あの録画されたコーチングセッションに信頼を寄せていた。彼らは毎週、私のためにそこにいてくれた。私を待っていてくれた。その幻想は今、打ち砕かれた。
何千もの過去のワークアウトは残っているが、幽霊のようなものだ。価値がなくはないが、コーチたちはすでにSNSで別れを告げている。
Supernaturalのコーチの1人で、2年前には幸運にも直接会うことができたMark Harari氏に、私がどれほど喪失感を感じているかを伝えると、同氏はメッセージをくれた。「私が人々に知ってもらいたい最も重要なことは、われわれコーチとチーム全体が、この旅のすべての瞬間をどれほど心から愛していたかということだ。お互いだけでなく、一歩一歩を支えてくれた素晴らしいコミュニティと共に。われわれはコミュニティのためにこれに取り組んだ。自分がどれほど強く、勇気があり、能力があるかに気づいたすべてのアスリートのために。それがこの冒険のすべてだった。もしSupernaturalがあなたの人生に良い影響を与え、喜びをもたらし、より良い人生へと導いたのなら……どうか続けてほしい。ヘッドセットを着けて、われわれが共に作り上げたすべてを祝福してほしい。それは常にあなたのためのものだったのだから」
おそらく、私は今後フィットネスプランを自分で立て、突然消えてしまうかもしれないサービスに依存しないようにすべきなのだろう。すべてのものはいつか消えてしまうが、これこそが没入型・サブスクリプション型のデジタルライフスタイルの最大の問題ではないだろうか。われわれはその世界に住み、取り組み、つながりを感じるよう促される。そして、それが消えるときは何の権限も持たず、裏切られたという思いだけが残る。
Supernaturalはいちアプリにすぎないと言う人もいるだろう。自分を動機づけてくれる他のVRアプリを見つけられることはわかっているし、そうするつもりだ。そして、これまでに行ったワークアウトが重要であることに変わりはない。それを糧にできる。しかし、今後数カ月間、Questを手に取る可能性は極めて低いだろう。そう思うのは私だけではないはずだ。
Metaがわれわれにスマートグラスを買わせたいと考えているのは明らかだ。ただし、スマートグラスの分野に取り組んでいるのは、Metaだけではない。現在、MetaはVRにおいてユニークで手頃という優位性を持っているが、そのアドバンテージは目の前で崩れ去ろうとしているのかもしれない。Valveの「Steam Frame」の登場も間近に迫っている。
XRヘッドセットとそのソフトウェアの未来は、私のような熟練のテクノロジー記者にとっても、かつてないほど不透明になった。だが、Markコーチの言う通りだ。たとえ場所が変わっても、始めたことを続けるべきだろう。Supernaturalが提示したアイデアは、間違いなく再び浮上してくるはずだ。ただ、次にそれを行うのはMetaではないかもしれない。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を4Xが日本向けに編集したものです。
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