
12月18日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(スマホソフトウェア競争促進法)が施行された。公正取引委員会が所管し、AppleとGoogleを規制対象とする。Googleは法施行を前にメディア向け説明会を開き、新法への対応方針を説明した。

ブラウザの選択画面(チョイススクリーン)。5つの選択肢がランダムな順番で表示される
スマホ新法が規制する4つの分野
スマホソフトウェア競争促進法は、モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの4分野を「特定ソフトウェア」と定め、一定規模以上の事業者を「指定事業者」として規制する。公正取引委員会はAppleとGoogleを指定した。
平たく言えば、「自社のアプリストア以外を締め出してはいけない」「アプリ内課金で自社の決済システムを強制してはいけない」「検索結果で自社サービスを不当に優遇してはいけない」といった内容だ。ユーザーがデフォルトのブラウザや検索エンジンを簡単に変更できるようにすること、初期設定時に選択画面を表示することなども求められる。
違反時の課徴金は売上高の20%、繰り返し違反では30%に上る。EUのデジタル市場法(DMA)の課徴金率(最大10%、繰り返しで20%)より厳しい。一方、セキュリティやプライバシー、青少年保護を理由とした「正当化事由」も設けられ、一律の規制適用ではなく個別の判断余地が残った。
「新法の要件はAndroidのオープン性と一致」
Googleでアジア太平洋地域の法規制政策を統括するフェリシティ・デイ氏は、「公正取引委員会と約18カ月にわたり協議を重ねてきた」と語った。
デイ氏が強調したのは、新法対応が必ずしも大幅な変更を伴わない点だ。「コンプライアンスはすべての領域での変更を意味するわけではない。新法の要件の多くは、以前から存在してきたAndroidのオープン性と一致している」。
具体例として、AndroidではすでにGalaxyストアなどサードパーティー製アプリストアからアプリをインストールできること、ブラウザや検索エンジンのデフォルト設定を簡単に切り替えられること、Samsung Walletのような他社の決済アプリがOSの機能と連携できることを挙げた。データポータビリティについても、「Google Takeout」で80以上のサービスからデータをダウンロードできる仕組みを以前から用意していたと説明した。
ブラウザ・検索の選択画面は12月2日から展開
ユーザーに最も影響する変更が「チョイススクリーン」の導入だ。デフォルトのブラウザや検索エンジンを選ぶ画面で、新法で表示が義務付けられた。Googleは12月2日から段階的に展開を始めた。
画面には5つの選択肢がランダムな順番で並ぶ。インストールデータに基づいて上位5社が選ばれ、事前に特定のサービスが選択された状態にはならない。対象はAndroid 15以降を搭載する端末で、iOSのGoogle Chromeアプリでも順次表示される。

検索エンジンの選択画面。各サービスが自社の特徴をアピールする説明文も表示される
開発者向けには課金システムの選択肢を拡大
開発者向けの変更もある。アプリ内課金の選択肢を広げる「ユーザーチョイス課金」(User Choice Billing、UCB)をゲームアプリにも拡大した。新法はアプリストア事業者が自社の課金システム以外の利用を妨げることを禁じており、これへの対応だ。
UCBを使うと、開発者はGoogle Play課金に加えて独自の課金システムを提供できる。日本では2022年からゲーム以外のアプリで利用可能だったが、18日からはゲームを含む全アプリに広がった。開発者がGoogle Playの手数料(通常15〜30%)を回避できれば、アプリ内課金の価格低下につながる可能性もある。
アプリ外でのコンテンツ購入を可能にする「リンクアウトプログラム」も始まった。アプリからWebサイトに誘導して決済できる仕組みで、新法が禁じる「アプリ外購入への誘導妨害」への対応だ。
説明会時点でデイ氏は「公正取引委員会と協議を進めており、近日中に発表する」と話していたが、18日公開のブログで詳細が出た。開発者はGoogle Playでの購入と自社サイトでの購入を並べて提示できる。18日から登録手続きを開始でき、APIもまもなく利用可能になる。手数料は「競争力のある体系」で提供するとし、安全性とセキュリティに関する要件も課す。
EUのDMAとの違いを強調
デイ氏は日本の新法と欧州のデジタル市場法(DMA)の違いにも触れた。「日本の新法はヨーロッパとはかなり異なるアプローチを取っている」として、2つの違いを挙げた。
まず規制範囲。「日本の新法は非常に的を絞っている」とデイ氏は評価した。DMAはOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンに加えてメッセージングやSNSも対象とするが、日本はスマートフォン関連の4分野に絞った。
次にセーフガード。日本の法律ではユーザーの利便性やセキュリティを理由に一定の措置を講じることが認められた。「ヨーロッパのDMAに対するコンプライアンスとは異なる手立てを取ることが認められている」とデイ氏は話す。
ではDMAで何が起きたのか。デイ氏は「コンプライアンスを担保するために困難なトレードオフを強いられた」とブログに書いたと説明し、具体例として「検索」を挙げた。
DMAは「ゲートキーパー」に指定された事業者が自社サービスを競合より優遇することを禁じた。Googleの場合、検索結果の目立つ位置に自社のフライト検索やホテル検索を表示する従来の手法が規制対象となった。競合の比較サイトにも同等の表示機会を与える必要が生じ、2025年9月のブログでは、欧州の観光業界で直接予約のトラフィックが最大30%減ったと訴えた。欧州企業全体で最大1140億ユーロの収益損失につながるとの試算も引いた。
セキュリティの懸念もある。DMAはGoogle Playストア内のアプリから外部サイトへのリンクを制限するGoogleのポリシー緩和を求めた。Googleはブログで「DMAにより、詐欺や悪意あるリンクからユーザーを守る正当なセーフガードの削除を強いられている」と書き、Play Storeの信頼性を悪用した詐欺が増える恐れを指摘した。
説明会でデイ氏は「新たに出てくる義務によってセキュリティリスクが高まる可能性はある」と認めつつ、「日本の新法には重要な保護措置が組み込まれているため、ユーザーをリスクから守る手立てを打つことができる」と語った。
開発者も同様の懸念を抱く。18日公開のブログによると、日本の開発者を対象にした調査で79%が「主要アプリストア以外でアプリ内コンテンツを配信するとセキュリティリスクが高まる」と答えた。Googleはこの結果について「意図しない結果を避けるには、正しい実装と規制当局との建設的な対話、慎重な運用が欠かせない」とした。
日本の新法では、EUで起きた事態を回避できる余地がある。デイ氏の発言からは、セキュリティやユーザー体験を損なわずに規制対応できる点を評価する姿勢が見えた。
施行後も公取委との協議は継続
デイ氏は「私どもの作業は12月18日で終わるわけではない」と述べ、法施行後も公正取引委員会との協議を続ける方針を示した。18日のブログでも「公正取引委員会のご協力と多大なご尽力、緊密な連携に感謝いたします」と謝意を表した。
新法には確約手続という仕組みがある。違反の疑いがある行為について、事業者が自主的に是正計画を出し、公取委の認定を受ければ排除措置命令や課徴金を回避できる。公取委は「確約手続は法的措置と比べ、競争上の問題をより早期に是正できる」とし、事業者との協調的な解決を想定する。
Googleが「建設的な協議」を繰り返し強調する背景には、こうした制度設計がある。正当化事由の適用範囲や具体的な運用は、今後の協議を通じて固まる部分も多い。スマートフォン市場の競争環境がどう変わるか、法施行後の動きが焦点となる。
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