
産業界でAI導入が急速に進む一方、現場の労働者が削減できた時間は平均して1日40〜60分という調査結果が出た。
OpenAIが発表した2025年版レポート「The State of Enterprise AI」は、企業におけるAI活用の実態を浮き彫りにした。100万社以上の匿名化された利用データと、約100組織、9000人の従業員を対象とした調査に基づく同レポートからは、職場へのAI浸透が進む一方で、その成果にはばらつきがある現状が見えてくる。
調査では、従業員の75%が「AIによって業務のスピードや質が向上した」と回答。さらに同数が「以前は不可能だった新しいタスクをこなせるようになった」としている。
しかし、生産性向上は期待されたほど普遍的なものではないようだ。レポートによれば、ChatGPT Enterpriseユーザーが1日に削減できた時間は、平均して1時間にも満たない。以下、レポートの主要な調査結果を詳報する。
「生産性は向上」しかし劇的な変化には至らず
OpenAIの最新データは、AIブームに対する冷ややかな現実を示唆している。ChatGPT Enterpriseのユーザーが実際に削減できている時間は、稼働日1日あたり平均40〜60分程度だ。
もちろんゼロではない。だが、多くの人々が夢見たような「抜本的な生産性革命」には程遠いのが実情だ。会議やメール、無数のツールに追われる多忙な日常において、1時間の余剰時間は「潮目の変化」というより、ささやかなメリットに過ぎない。
急増する利用量、伸び悩む成果
企業内のAI導入自体は加速している。過去1年でChatGPT Enterpriseへの週間メッセージ数は約8倍に増加し、Custom GPTsなどの構造化されたワークフローの利用は19倍に跳ね上がった。推論トークンの使用量も320倍以上に達しており、より複雑なプロンプトが試されていることがわかる。
だが、成果は必ずしも利用量に比例していない。ITトラブルシューティングやキャンペーン作成、コーディングなどの特定タスクでは確かにスピードアップが見られるものの、それらをならした1日あたりの時短効果は、依然として1時間程度にとどまっている。
上位5%の「フロンティアユーザー」だけに見える景色
データからは、一般的なユーザーと「フロンティアユーザー(利用頻度上位5%)」との間に大きな断絶があることも判明した。
フロンティアユーザーのメッセージ送信数は平均の約6倍に上り、週に10時間以上(1日あたり約2時間)の時間を削減している。彼らはAIを単なる「時折使うアシスタント」ではなく「信頼できる同僚」として扱い、ルーチンワークの自動化やワークフローの構築にAIを深く組み込んでいる。とはいえ、1日2時間という数字ですら、革命的というよりは「中程度の成果」と言えるかもしれない。
OpenAIはこの結果について、あくまで現時点でのスナップショットであり、最終的な結論ではないと位置づけている。今後の生産性向上は、AIモデルの進化そのものよりも、組織がいかにプロセスやワークフローをAIに合わせて再構築できるかにかかっているという。
大半の労働者にとって、AIは今のところ「あると便利な脇役」であり、変革の主役ではない。作業を加速させ、退屈な業務を減らす助けにはなるが、1日1時間未満という数字は、この技術が強力でありつつも、まだ限界があることを示している。この数字が今後上昇していくのか、それとも「1日1時間」が現実的な上限なのか。それが次なる焦点となりそうだ。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を4Xが日本向けに編集したものです。