
ショーケースには、常時20種類以上のバラエティ豊かなドーナツが並んでいる(写真:ダスキン提供)
後編の本記事では、市場のシェア約9割弱を握るミスタードーナツが、なぜ「ターゲット設定をしない」「商品開発を仕組み化しない」常識外れの経営を貫くのかーー。データドリブンが常識の現代において、「みんなで集まり、悩み考えて決める」アナログ経営で勝ち続ける理由を探ります。
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どうして大手コンビニもミスドに勝てないのか
ミスタードーナツの売り上げは、2024年度お客様売り上げで1365億円、ドーナツ市場のシェアは、2024年実績で1527億円。
前年比112%で成長する市場のなかでミスタードーナツのシェアは9割弱と、押しも押されもせぬ業界首位ブランドだ。2位は『クリスピー・クリーム・ドーナツ』。2025年に入って『アイムドーナツ』も追い上げるが、まだ到底及ばない。
「他社の参入は市場拡大につながるメリットだと認識しています。特に対策はしていません」
運営会社の株式会社ダスキン ミスタードーナツ事業本部 企画開発本部 巖(いわお)美里さんは、そう余裕を見せる。
筆者の息子やその友人たちにも人気のゴールデンチョコレート(写真:ダスキン提供)
たしかにミスタードーナツには根強い人気があるように感じる。個人的には子供にもファンが多い実感があり、筆者の小学生の息子も帰宅前、「おやつ買って帰るけどなにがいい?」とリクエストを聞くと、八割型答えはミスタードーナツ。それも、ゴールデンチョコレート一択だ。
前編でも触れたとおり、ミスタードーナツは商品開発においてターゲット設定をしない。老若男女すべてが顧客対象となるため、「極端に辛いもの」など、味を際立たせない、突出させないことを意識している。
甘さも、他のドーナツチェーンに比べるとかなり控えめだ。そのため、一度に2、3個食べる人も。誰にでも受け入れやすく、飽きのこない味わいを実現しているのだ。
けれどこのスタイルは、多くの企業が顧客を想定してマーケティングし、「刺さる味」を目指す現代においては、「常識外れ」ではないだろうか。簡単にやっているように見えて、他社が真似できないところでもある。
現に、2016年からコンビニエンスストアでドーナツを置く店も増えたが、SNSには「■■のドーナツはミスドに勝てない」などといった書き込みが散見される。コンビニは顧客を想定して開発しているから、自然、ミスタードーナツより受け入れられる客層が狭くなるからだろうか。
客層を固定しないフリースタイルは、他社がビッグデータを駆使して戦えば戦うほど、勝てない競争になるのかもしれない。
このようなミスタードーナツの姿勢は、どのように生まれたのだろう。