
Metaが発表した新しいAIメガネ「Meta Ray-Ban Display」を誰かがかけているのを初めて見た瞬間、従来の製品とは見た目が違うことにすぐ気づいた。通常の「Ray-Ban Metaスマートグラス」よりも厚く、映画監督のMartin Scorsese氏がかけていそうなものを連想させた。半透明のようなブラウンのフレームで、スタイリッシュだ。また、それと組み合わせて使うリブ編み生地のリストバンドにも気づいたが、それは私が期待していたからに他ならない。
Meta Ray-Ban Displayは、米国で9月30日に799ドル(約11万7000円)で発売予定だ。
そして、その使い方は驚くべきものだ。装着してみると、右目のレンズにディスプレイが投影されるのが見えた。セットの一部であるニューラルバンドを装着した右手で、指を軽くはじいたりつまんだりするだけでアプリを操作できる。
現行のRay-Ban Metaはこれとは異なる。ディスプレイもリストバンドもなく、価格もはるかに安い。そして、筆者にとって現時点で最高のスマートグラスでもある。Metaの新しいMeta Ray-Ban Displayが、どれだけ多くの人にとって不可欠あるいは手頃だと感じられるかは分からない。また、全ての度付きレンズに対応しているわけでもない。
例えば、私の屈折度数は-8.00だが、Metaの最新グラスはこれに対応していない。今のところ、+4.00から-4.00の度数範囲にのみ対応している(Metaはデモを実際に見られるように、分厚いレンズインサートを用意してくれた)。この欠けているピースは、万人向けのスマートアイウェアを設計する上でMetaがどの段階にいるかを多く物語っている。
Meta Ray-Ban Displayは、「Meta Connect 2025」で発表された中で最も高価で野心的なデバイスだが、発表されたのはこれだけではない。同社は、より優れたカメラとバッテリー持続時間を備えた最新世代の標準モデル「Ray-Ban Meta(Gen 2)」(発売中)や、フィットネスに特化したカーブ形状の「Oakley Vanguard」グラス(10月21日発売予定)も発表した。
鍵はリストバンド

提供:Meta
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Ray-Ban Metaスマートグラスは、ウェアラブルなスマートテクノロジーとして成功を収めてきたが、ARグラスへの道のりはより困難だ。2024年、私はARグラスの壮大なプロトタイプ「Project Orion」を試した。これには大型の3Dディスプレイと視線追跡(アイトラッキング)機能が搭載され、ニューラルリストバンドと連携して動作した。その狙いは、スマートグラスを身体の延長部分のようなものにし、AIを手首と目にもたらすことだった。
予想通り、そのニューラルリストバンドが復活し、ついにこの新しいMeta Ray-Ban Displayと共に登場する。これは800ドルのパッケージの一部であり、間違いなく最も興味深い要素だ。しかし、この新しいスマートグラスはOrionからわずか1年で実際の製品として奇跡的に登場するものの、Orionにあった未来的な追加機能の多くを欠いている。視線追跡、3D、空間認識機能はなく、片目に小さなカラーディスプレイがあるだけだ。
それでも、MetaのキャンパスでMeta Ray-Ban Displayを約40分間試したデモは、スマートグラスの未来がウェアラブルな手首装着型インターフェースと共にやってくることを示してくれた。搭載されたAIも進化しており、実に魅力的だ。
デモの間、私は自分が拡張されていくように感じたが、時には奇妙な感覚もあった。そのため、これが現実世界でどのように機能し、気を散らしたり孤立感を感じさせたりしないかについては、大きな疑問を持っている。
私が何を見ているか、周囲の人にはほぼ分からない
Meta Ray-Ban Displayの最も驚くべきことの1つは、右レンズに投影されているディスプレイが他人からは見えないことだ。本当に、全く見えない。
私と同僚たちは、Metaのウェアラブル担当バイスプレジデントであるAlex Himmel氏がかけているグラスを見た。レンズは完全に透明に見え、ARグラスでよく見られるような虹色のシミのようなものはなかった(あのシミのような見た目は通常、側面から投影されるディスプレインジンの光を屈折させるウェーブガイドによって生じる)。Meta Ray-Ban DisplayはLCOS(Liquid Crystal on Silicon)という投影技術を使用しており、ウェーブガイドは驚くほど見えない。
このため、現実世界でこのグラスをかけるというアイデアは興味をそそる。誰にも気味悪がられることなく、ディスプレイを見ることができるかもしれない。しかし、私が遠くを見つめながら突然奇妙な方法で指をスワイプし始めたら、人々はどう思うだろうか。
Meta Ray-Ban Displayに搭載された単一の600×600ピクセルのカラーディスプレイは、それほど大きくない。視野角は約20度しかなく、通常のARグラスよりはるかに狭い。しかし、1度あたり42ピクセルという密度は十分に鮮明に見える。例えば、Spotifyのアルバムカバーアートに書かれた非常に小さなテキストも読み取ることができた。

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ただ、片目にしかディスプレイがないのは奇妙だ。この「半分しか存在しない」ような体験は、ディスプレイに焦点を合わせるのを時々少し難しく感じさせる。それは数十cm前方に投影されているように見える。
屋外でディスプレイを視認できるように、Meta Ray-Ban Displayにはデフォルトで調光レンズが付属している。外に出てみるとレンズが暗くなり、太陽を見つめても目の前のポップアップ表示を認識できた。
Metaは、バッテリー持続時間が複数用途での使用で6時間という驚きの長さをうたっており、これは予想以上だった。しかし、これは話半分に聞いておくべきだろう。特にディスプレイをつけたままヘビーに使うと、その時間は短くなると考えられる。
新しいパラダイムの始まりを感じさせるニューラルリストバンド
私はしばらく前から、複数のデバイスでハンドジェスチャーを使ってきた。「Meta Quest」や「Apple Vision Pro」のハンドトラッキング、さらに「Apple Watch」がサポートするますます多くのジェスチャーなどだ。しかし、Metaのぴったりフィットする小さなニューラルバンドは、もっと多くのことができそうだ。私は長年、Metaがこの技術を進化させてきたのを目の当たりにしてきた。2022年にはMark Zuckerberg氏が私にデモを見せてくれた。
ぴったりフィットする布製のバンドは、2024年に試した時と同じ装着感だった。手首の骨の少し上に装着するようになっており、ほとんどの腕時計より少し高い位置になる。内側では、電極が手首の周りのさまざまな場所に配置されている。これらは、ごくわずかな手の動きでも運動ニューロンから発せられる電気信号を測定する。Metaはバンドのアルゴリズムを訓練し、人差し指と中指のピンチ、手首の回転、親指のスワイプを検出できるようにした。また、握り拳で前後または上下に「スクロール」することもできる。
ピンチ、タップ、スワイプは、手が視界の外にあっても機能する。しかし、その特定の操作方法を覚えるにあたり、困惑することもあった。MetaのOrionグラスとは異なり、このRay-Banには視線追跡機能が搭載されていない。そのため、さまざまなアプリアイコンやディスプレイの一部にスワイプするのは、OrionやApple Vision Proのようにちらっと見てタップするよりも手間がかかることがあった。
私はSpotifyで音楽を再生し、指をそろえてダイヤルのように回して音量を上げ下げした。同じねじりながらつまむジェスチャーを使ってディスプレイでデジタルズームし、写真を撮影した。廊下の向こうにいるMetaの従業員からの着信にタップで応答すると、ビデオチャットとしてつながった。同時に私の視点(POV)のカメラ映像を共有することもできた。
Meta Ray-Ban Displayには、グラスの側面にタッチパッドとキャプチャーボタンが搭載されており、他のスマートグラスと同様に音声コマンドでも操作できる。しかし、ニューラルバンドは、ディスプレイ内のメニューを移動したり、OS内のアプリを見つけたりするために欠かせないナビゲーションツールだ。私は中指のピンチでディスプレイをオンにする練習をした。
その場で即座にジェスチャーを使えるようになるというアイデアは、まるで手品のようだ。このバンドがより多くのデバイスで使えるようになれば、ユニバーサルなインターフェースのように感じられるかもしれない。とはいえ、それは大きな「もしも」の話だ。Metaの主要なハードウェア製品はVRヘッドセットとスマートグラスであり、このようなものが大手テクノロジープラットフォームとの提携なしにスマートフォンのOSやPCと連携する方法を想像するのは難しい。今のところ、それは検討されていない。
しかしMetaは、ニューラルリストバンドがより多くの用途に進化する可能性があるとしている。筆者が驚かされたあるデモでは、バンドを装着した別のチームメンバーが、ズボンの脚の上で指を使ってメッセージを手書きしていた。これは将来的に搭載される予定の機能だ。
アクセシビリティーの領域では、ニューラル入力技術は、運動機能がほとんどない、あるいは全くない人々や、手足を失った人々を支援することさえ可能かもしれない。しかし現時点では、このニューラルバンドは手首に装着するように設計されている。Metaのキャンパスで、私はアスリートのJon White氏と話をした。同氏はパラリンピックに向けて訓練を受けており、3つの手足を失った退役軍人で、OrionとMetaの新しいスマートグラスおよびニューラルバンドをテストしている。同氏はカヤック中にスマートグラスがいかに役立ったかについて考えを語り、この技術が拡張する可能性について思いを巡らせていた。
しかし、ニューラルバンドを忘れずに着けることができるか、という疑問もある。スマートグラスと共にもう1つ装着するデバイスが増えるのは面倒に感じる。Metaは独自のスマートウォッチを持っていないが、このようなバンドは腕時計の一部としてなら理にかなっているだろう。画面のないニューラルバンドは、「Whoop」バンドのように快適にフィットする。
Metaによると、バンドのバッテリーは1回の充電で18時間持続するという。また、IPX7の防水性能も備えているため、水しぶきや短時間の水没にも耐えられる。それでも、片方の手首に腕時計、もう片方にこのニューラルバンドを着けている自分を想像すると、少し大げさに感じる。
アプリ:未知の品ぞろえ、大部分はMeta中心
Meta Ray-Ban Displayの大きなうたい文句は、スマートフォンを見ることなく、スマートグラスでより多くのことができるというものだ。私が見たデモのアプリは、ほとんどがMetaのプラットフォームに基づいている。「WhatsApp」と「Messenger」がコミュニケーションを担い、「Meta AI」がライブキャプションやヘッドアップディスプレイを使った情報検索のためのAI支援を提供する。別のデモでは、私の好きなNFLチームであるニューヨーク・ジェッツに関するInstagramの動画リンクが送られてきた。2011年頃のジェッツ対ペイトリオッツのプレーオフゲームの動画を見たが、これはMeta Orionグラスでも同じことをした記憶がある。
スマートグラスは、スマートに連携できるサービスがあって初めてその真価を発揮する。私はすでにRay-Ban Metaスマートグラスを驚くほど良いと感じているが、同時にかなり限定的だとも感じている。私のメールやメモなど、スマートフォンで行う多くのことを見ることはできない。また、私が使う可能性のあるGoogleやAppleのAIツールやプラットフォームとは異なる、独自のAIを搭載している。

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Metaは十分なアプリ開発者を引きつけて、Meta Ray-Ban Displayの体験を充実させ、私がスマートフォンを開く回数を減らしてくれるだろうか。それは分からない。
いくつかのアイデアには驚かされた。スマートグラスを使ったビデオチャットでは私の視点を共有できるため、テレプレゼンスやアシスタンスに関する興味深いアイデアが生まれる。また、優れたライブキャプションモードは、部屋にいる人々の会話のキャプションをリアルタイムで表示しつつ、私が見ている会話に焦点を合わせ、他の会話をフィルターで除去してくれた。
Metaはこのスマートグラスに地図機能も搭載しており、リアルタイムのナビゲーションで道順を示してくれる。2024年にGoogleのプロトタイプディスプレイグラスで地図を見たので、このアイデアは新しいものではないが、Metaのスマートグラスが最初に市場に登場することになる。しかし、私は検索エンジンとして「Googleマップ」を使っている。Metaの地図は、私の検索における関心と同じくらい関連性を感じられるだろうか。あるいは、私の家や友人の家の場所が分かるのだろうか。
一部のAI機能もまた奇妙だ。私は、Alex Himmel氏の写真をポップアートスタイルの新しいバージョンに生成することをMeta AIに指示するよう促された。すると不可解なことに、Meta AIは「砂糖の渦」を追加することを提案し、続いてペイストリー、巨大なキノコ、カエルのウェイターを提案してきた。私は次々と追加し続けた。奇妙な写真を作り上げたが、一体何のために?
とはいえ、Meta AIは文脈に応じた便利なこともでき、時には時間を節約してくれる。ジェッツでのJustin Fields選手の成績について尋ねると、下に表示された小さなボタンの提案には、キャリア通算成績や、ベアーズのクォーターバックとしての成績といった選択肢が表示された。
身体を拡張する未来はもうここにあるのか?

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お分かりの通り、私はこれらのスマートグラスについて多くの疑問を抱いている。それは、Metaが実用性と真のウェアラブルコンピューティングを推し進めるほど、スマートグラスのビジョンを私たちがすでに持ち歩いているスマートフォンに統合するという、困難な挑戦に直面するからだ。Meta Ray-Ban Displayは「Bluetooth 5.3」と「Wi-Fi 6」でスマートフォンに接続するが、おそらく既存のRay-Banと同様の方法だろう。つまり、私たちが日常的に使うスマートフォンアプリへの直接的な連携は限られている。
このスマートグラスは、私が予想していたよりもはるかに印象的に見え、また感じられたが、2024年に見られたOrionの構想からは機能的に一歩後退している。Metaは今でもOrionのビジョンに取り組んでいるという。
一方、このスマートグラスをかけることは、日常生活で何を意味するのだろうか。スーパーに入ったり、子どもを学校に送ったりするときに、スワイプやタップをしたり、目をやったりするのだろうか。実行できる、または呼び出せることの全てを、可能性と感じるか、それとも邪魔と感じるか。
全く新しく広範な方法で、テクノロジーによる身体の拡張が始まるように思える。そして、これを行うのはMetaだけではないだろう。かつての「Google Glass」のときに繰り広げられた議論が、今再び始まるのだ。
まだ初期段階にあるニューラルテクノロジーは、これから成長していくだろう。手首の次は、何が可能になるのか。このグラスを認知機能の拡張にするというZuckerberg氏の計画は、果たして本当にうまくいくのだろうか。そして、たとえうまくいったとしても、それは人々にどのような影響を与えるのだろうか。

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個人的には、まだ普段使いのメガネとしてかけられないことにも少しがっかりしている。より広い範囲の度数に対応していないため、数週間後にテストするには、コンタクトレンズを装着する必要があるかもしれない。今回のデモでは、Metaが度付きのインサートを用意してくれた。それはレンズの厚みを増し、概ね問題なく機能したが、このインサートは誰もが注文できるものではない。
2026年初頭までは米国限定の製品であるという事実もまた、Meta Ray-Ban Displayがまさに開発途上であることを示すもう1つの兆候だ。
ほとんどの人にとっては、より手頃な価格で普段使いのRay-Ban MetaおよびOakleyスマートグラスの方が賢明な選択だろう。これらはバッテリー持続時間が8時間に向上し、カメラも強化されている。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。