
ソフトバンクは12月11日、法人向けAIエージェントプラットフォーム「AGENTIC STAR(エージェンティック・スター)」の提供を始めた。指示を出せば、AIが自ら考えて必要な作業を進める「AIエージェント」をSaaS形式で使える。価格は非公開だが、20ユーザーから契約でき、中小企業でも導入しやすい価格帯だという。

AGENTIC STARはブラウザから利用できるSaaS型AIエージェントサービスだ
「仕事のための仕事」をAIに任せる
従来のAIチャットサービスは、質問に答えたり文章を生成したりする「一問一答」型が中心だった。AGENTIC STARでは、業務のゴールを伝えれば、AIが必要な手順を組み立てて自律的に作業を進めてくれる。
たとえば「営業案件の分析ダッシュボードを作って」と指示すると、AIがデータの整理方法を考え、分析軸を設計し、グラフを含む画面を生成するところまで一気に処理する。発表会のデモでは、約15分でダッシュボードが完成する様子を紹介した。

デモでは営業案件の分析ダッシュボードを約15分で生成した
ソフトバンクはこうした作業を「仕事のための仕事」と呼ぶ。情報収集、資料作成、会議準備など、本来の業務を進めるための準備作業をAIに任せ、人はより創造的な業務に集中する。そんな働き方を目指す。
80種類以上のツールを搭載、専用環境で安全に実行
AGENTIC STARは、文書作成、表計算、プレゼン資料、画像生成、動画生成、コード作成など80種類以上のツールを備える。AIが指示内容に応じて適切なツールを選び、組み合わせて使う。
AIの処理はチャットごとに独立した専用環境で走る。他のシステムやデータに影響を与えず、権限のないサービスへのアクセスも防げる。管理者がアクセス制御やログ管理を行える機能も用意した。

AIの処理は専用仮想環境で実行され、社内環境に影響を与えない設計となっている
過去のやりとりを「長期記憶」として蓄積する機能もある。使い込むほど、部門や担当者の傾向を踏まえた提案ができるようになる。
外部システムとつなぐ業界標準規格「MCP」にも対応した。MCPは2024年11月に米Anthropicが提唱し、OpenAIやGoogleも採用している。主要なクラウドサービスやビジネスツールが対応を進めており、連携先は今後増えていく見通しだ。
社内で500人超が先行利用、開発業務で90%の工数削減も
ソフトバンクは社内の営業部門や開発部門でAGENTIC STARを先行導入し、500人超の社員が日常的に使っている。開発業務ではエラー修正などで90%の工数削減につながった例もある。
同社は2030年度に500億円の事業規模を目指す。企業からのユーザー課金に加え、他社へのAPI提供でも収益を得る計画だ。
サービス提供モデルは4種類ある。ブラウザから使える「SaaSモデル」は本日提供を開始した。顧客環境にAIエージェントを構築する「カスタマイズモデル」、既存システムにAPI連携で組み込む「外部接続モデル」、開発者向けに実行環境を提供する「開発基盤提供モデル」は2026年3月から始める。
OpenAIとの「Crystal Intelligence」とは別路線
ソフトバンクは2025年2月、OpenAIと提携して企業向けAI「Crystal Intelligence(クリスタル・インテリジェンス)」の開発を発表した。11月には合弁会社「SB OAI Japan」を立ち上げ、2026年から日本で独占展開する。
両サービスの関係について、同社は「マルチAI戦略」と説明した。Crystal IntelligenceがOpenAIの技術を基盤とするのに対し、AGENTIC STARは複数のAIベンダーの技術を使える。AGENTIC STARはソフトバンク単独で運営し、今後Crystal Intelligenceとの連携も検討する。
法人向けAIエージェント市場では、Microsoft Copilot、Google Gemini for Workspace、各種スタートアップのサービスが出そろい、競争が激しくなっている。ソフトバンクは通信事業で築いた法人顧客基盤と、社内での実践で得たノウハウを生かし、この市場で存在感を高めていく考えだ。