
ソフトバンクは11月5日、AIスタートアップ企業向けにGPU計算基盤を無料で提供する支援プログラムを開始したと発表した。モデル構築やプロトタイプ検証に取り組む企業には60日間無料で提供し、AIモデルの開発や商用化を支援する。10月からAI計算基盤の外販も開始した。
これまで国産LLM「Sarashina」の学習用に社内で使っていたGPU基盤を、スタートアップ企業のエコシステム形成に活用する。

ソフトバンクはAIデータセンターの外販を行うと発表した
3段階の支援プログラム、出資も検討
支援プログラムは企業の成長段階に応じて3つのプランを用意した。
第1段階は、モデル構築やプロトタイプ検証に取り組む企業向けだ。60日間無料でGPU基盤を提供する。
第2段階は、AIモデルの開発が一巡し、実証実験に入った企業向けだ。割安な料金でサーバーを提供し、製品開発を支援する。
第3段階は、商用化フェーズに入る企業向けだ。資金面の支援を含め、顧客や販売チャネルの紹介も行い、共に成長していく。ソフトバンクからの出資も検討する。

スタートアップ企業向けには計算リソースの無償提供などの支援も行う
GPU 4000基でクラスター化、外販も開始
ソフトバンクは現在、GPU 1万基を保有している。このうち4000基を1つのクラスターとして並列処理し、Sarashinaの学習に利用してきた。
10月からは、このGPU基盤の外販を開始した。大手企業からの大量のGPU要求には対応できないケースもあったが、今後はAI企業がサービスを作るための利用や、自社システムを構築する企業への提供を進める。
宮川潤一社長は「大きな対価が得られればいいと思っているわけではなく、種まきをすればいい。畑を作った」と説明した。スタートアップのエコシステム形成を優先する考えだ。
堺と苫小牧で大規模化、Blackwell 15万枚規模へ
ソフトバンクは堺と苫小牧にデータセンターを建設中だ。堺ではNVIDIAの最新GPU「Blackwell」を5万枚規模で導入する計画だ。次世代の「Rubin」も苫小牧で3万枚規模の導入を目指す。
合計でBlackwell換算で15万枚規模のGPU処理能力を持つ計算基盤を構築する。ただし宮川社長は「アメリカの規模からすると小さなデータセンターの1塊」規模だと述べ、米国の大規模データセンターと比べると貧弱だとの認識を示した。
韓国の26万基規模に危機感、政府支援を要請
NVIDIAは最近、韓国企業や韓国政府に対し、26万基規模のGPUを提供すると発表した。報道によれば、アメリカ、中国に次ぐ世界3位の規模だという。
宮川社長はこの動きに危機感を示した。「半導体の次に来るのはAIの計算基盤のサイズ。すべてがコンピューティングパワーだ」と述べ、計算基盤が国力になると強調した。
「韓国が思い切った手を打った。アジアの中心が日本なのか韓国なのか、計算基盤が重要になる」と宮川社長は指摘した。
政府支援については「韓国が1兆円ぐらい補助金を出すという話ですから、日本はその倍ぐらいはないものかと思ったりします」と述べ、大規模な支援の必要性を訴えた。「高市政権に、打ち手が遅くなっていいのかとご助言申し上げたい」とも語った。
GPU需給は依然逼迫、更新も継続
ソフトバンクが保有するGPUは「全く余っていない」と宮川社長は説明した。社内での利用需要も依然として高い。
GPU需給が激しいため、古いGPUを持っていても意味がない。改修を進めながら新しいGPUを導入していくフェーズだと宮川社長は述べた。
日本のAIエコシステム形成に貢献
ソフトバンクのGPU基盤外販とスタートアップ支援は、日本のAIエコシステム形成に大きな影響を与えそうだ。計算資源の不足がボトルネックとなっているスタートアップにとって、無料提供や割安な利用は開発の加速につながる。
宮川社長は「振り落とされないように並んでいる。やっていなければビジネスチャンスすらない」と述べ、計算基盤の構築が将来の競争力に直結するとの認識を示した。
Amazonのアソシエイトとして、CNET Japanは適格販売により収入を得ています。